「歯列矯正」と聞くと、ワイヤーやマウスピースで歯並びを整える治療を想像する人が多いですが、矯正治療の一環として「抜歯」が必要になる場合があります。
これは、歯を並べるための「スペース」が口の中に足りないときに行われる処置です。
矯正治療の抜歯を正しく理解することで不安を和らげ、納得して治療に臨むことができます。
目次
なぜ矯正で抜歯が必要なのか?

歯科矯正で抜歯が必要になるかどうかは患者の歯並びの状態や治療方針によって異なります。
矯正治療で抜歯が行われる主な理由は、歯が並ぶ「スペースの不足」です。
以下のようなケースで抜歯が選択されることがあります。
・歯を並べるためのスペースが口の中に足りない場合
・顎が小さい場合(歯が重なり合ってしまう)
・歯が大きすぎて正しい位置に歯が収まらない場合
・上下の噛み合わせが悪い場合
・埋まっている親知らずが矯正の邪魔になる場合
正しい噛み合わせを実現するためにも抜歯が必要になります。
デコボコ,ガタガタ(叢生・そうせい)

顎が小さく歯が大きすぎる、または歯の数が多いために並びきらず、重なってしまう状態です。
このような場合、歯を抜いてスペースを確保し、きれいに並べる必要があります。
出っ歯(上顎前突)

前歯が前方に突き出ている場合、奥歯の方に引っ込めるためのスペースが必要です。
そのため、抜歯によって後方への移動スペースを作ります。
受け口(下顎前突)

下の歯または顎が前に出ている状態です。
下の歯を抜歯により後方に動かすことにより改善することができます。
前歯が噛み合わない(開口)

上下の歯を咬み合わせたときに、前歯が閉じきらず隙間ができてしまう状態を直します。
前歯が前方にある場合は後ろに引っ込めるために小臼歯もしくは親知らずの抜歯が必要になります。
また、舌癖によって引き起こされている場合はMFT(舌のトレーニング)が必要な場合もあります。
生まれつき足りない歯(先天欠如歯)
人間の永久歯は通常28本(親知らずを含めると32本)ありますが、1本以上の永久歯がもともと存在しない場合があります。
歯並びを整える時に、上下の歯の本数のバランスをとるためや、スペース確保のために隣の歯を抜くことがあります。
抜歯される歯の種類


👆上顎は前から数えて4番目、下顎は前から数えて5番目を抜歯しています。
🦷矯正治療で最もよく抜歯されるのは小臼歯(しょうきゅうし)です。
これは前歯と奥歯の間にある歯で、第一小臼歯(前歯から数えて4番目)第小臼歯(前から数えて5番目)下左右に2本ずつ、合計8本あります。
小臼歯を抜くことでスペースを確保し見た目のバランスも保ちやすいです。
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🦷第三大臼歯(親知らず)
親知らずは隣の歯を押したり虫歯になっていたりする場合は抜歯することが多いです。以下の理由から小臼歯や親知らずが選ばれやすいです。
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🦷犬歯
矯正治療では一般的に犬歯を抜歯することはほとんどありません。
犬歯は永久歯の中でも最も寿命が長い歯である為なるべく残すことが望ましいからです。
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・歯列の中心から比較的近く、スペース確保に有効
・噛み合わせや咀嚼機能に与える影響が比較的少ない
・見た目のバランスを保ちやすい
・矮小歯(わいしょうし=通常の歯より小さめの歯)など形態に異常のある歯
→ 左右で歯の形に不揃いがあると見た目への影響があります。
・銀歯や根の治療を行ったことのある歯
→ 一度歯科治療を受けている歯は健康な歯に比べて歯の寿命が短くなりやすいです。
・先天欠如歯(せんてんけつじょし=生まれつき足りない歯)
→ 生まれつき1本足りない場合や隙間の確保のため
このように患者の症状や治療方針によって抜歯される歯の種類が異なります。
抜歯の流れと注意点

矯正治療の抜歯は、通常、矯正歯科医の指示のもとで一般歯科にて行われます。
局所麻酔を使って行うため、痛みは最小限に抑えられます。
抜歯後は数日間、軽い痛みや腫れが出ることがありますが、ほとんどの場合は鎮痛剤で対処可能です。
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注意点としては以下のようなものがあります。
・抜歯部位の清潔を保つようにする
・術後は激しい運動や飲酒を控える
・食事はやわらかいものから始める
・強くうがいしない(血餅=けっぺい:傷口の保護が取れてしまうため)
抜歯しない矯正はできないの?
もちろん、すべての矯正治療で抜歯が必要なわけではありません。
顎の成長が見込める子どもの場合や、軽度の叢生であれば、抜歯せずに矯正できるケースもあります。
また、最近では「非抜歯矯正」と呼ばれる治療法も発達しており、歯列の拡大や奥歯の後方移動に
よってスペースを作る技術も向上しています。
抜を抜かずに治療する場合のスペースを作るためには
✅歯列を広げる
✅歯の両側を少し削る
✅歯を後方に移動する
などの方法が行われます。
これらの方法を駆使しても歯並びが改善出来ない、あるいは口元が突出してしまい悪影響が出てしまう場合は抜歯する必要があります。
ただし非抜歯にこだわりすぎると、無理に歯列を広げたり、噛み合わせが悪くなったりすることもあります。
最終的には矯正専門医と相談し、長期的な安定性や見た目、機能面も含めた「最適な方法」を選ぶことが大切です。
抜歯が必要なのに抜歯せずに矯正するとどうなる?
①口元が突出する可能性
歯を抜かずに矯正すると前歯が前方に押し出されて口元が出てしまう可能性があります。
元々、口元が出ている場合はリスクが高まります。見た目のバランスが悪くなるだけではなく口が閉 じにくくなり、口呼吸や乾燥の原因になりやすくなります。
②歯ぐきが下がる
歯に無理な力がかかると歯ぐきが下がることがあります.
歯の根元が露出して歯がなく見えるようになったり、知覚過敏の症状を引き起こしたりすることもあります。
③歯の根っこが短くなる
無理に歯を動かそうとすると歯の根っこが吸収され短くなる可能性があります。
歯の根っこが短くなってしまうと歯がグラグラして抜けやすくなる恐れがあります。
④後戻りしやすい
スペースが十分に確保されない状態で歯を動かすと、矯正装置を外した後に歯が元の位置に戻ろうとする力が強く働きます。矯正治療後に歯の周りの骨や組織が安定するまでに時間がかかるため、後戻りのリスクがあります。せっかく時間と費用をかけて矯正を行なっても歯並びが崩れてしまう可能性があります。
抜歯のメリットとデメリット
⭕メリット
・十分なスペースが確保できる
・歯が正しい位置に並ぶことで噛み合わせも改善
・口元が引き締まり、見た目が整う
・歯が動きやすくなる
・噛み合わせの改善ができる
・咀嚼(そしゃく)機能や発音の改善にもつながる
・治療の安定性が高い
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❌デメリット
・抜歯に対する心理的・身体的負担
・抜いたスペースが閉じきらないリスク(稀)
・一時的に歯数が減ることで、噛みづらさを感じる場合
・一時的に見た目に影響を及ぼす
・治療期間が長引く
・費用がかかる
まとめ

矯正治療における抜歯は、見た目や噛み合わせを整えるために必要な処置の一つです。
すべての人に必要なわけではなく、症状や骨格、希望する仕上がりによって判断されます。
不安を感じるかもしれませんが、抜歯矯正は長年の臨床経験と研究に基づいた安全な治療法です。
信頼できる矯正歯科医とよく相談し、納得のいく治療方針を選ぶことが、成功への第一歩です。
また、近年ではデジタル技術の発展により、矯正治療前に3Dシミュレーションを用いて治療後の歯並びや口元の変化を確認できるようになってきました。
抜歯を行うかどうか、どの歯を抜くのが最適かといった判断も、こうした精密な診断によってより正確に行えるようになっています。
さらに、矯正中の歯の動きや骨の状態も継続的に評価できるため、安全性や予測性も高まっています。
患者さんにとって「歯を抜く」ことは大きな決断ですが、見た目の改善だけでなく、長期的な口腔の健康や機能向上にもつながるケースが多くあります。
不安や疑問があれば遠慮せず医師に相談し、自分にとって最良の選択ができるよう知識を深めていきましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
このブログが、矯正治療を考えている方の不安や疑問を少しでも軽くできれば嬉しいです。
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