
矯正治療といえば、「歯にワイヤーをつけて並べていくもの」と思っていませんか?
実はそれだけではなく、歯並びやかみ合わせを整えるために、「歯を奥へ動かす」必要があることもあります。
特に、前歯が出ている方や、抜歯せずに治療したい方にとっては、奥歯を少し後ろに下げることがとても大切です。
そこで登場するのが「ベネスライダー(Beneslider)」という装置。
聞きなれない名前ですが、目立たず、しっかり歯を動かせる、とても頼りになる矯正のパートナーなんです。
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目次
ベネスライダーってどんな装置?

ベネスライダーは、上の奥歯を少しずつ後ろに移動させるための固定式の装置です。
歯の表側や裏側ではなく、上あごの内側(口の中の天井)に設置するのが特徴。
口を開けても、外からはほとんど見えないのがうれしいポイントです。
この装置の設計者は、ドイツの矯正専門医Dr. Wilmes(ウィルムス先生)で、“Bene”は彼の名前「Benedict」にちなんでつけられています。
どんな人に向いているの?
ベネスライダーが使われるのは、こんな人たちです。
- 前歯が出ていて、抜歯せずに歯を整えたい人
- 奥歯が前に倒れてきてしまっている人
- 下のあごとのバランスをとるために、上の奥歯を後ろに動かす必要がある人
- ワイヤー矯正やマウスピースと併用して、より効率的に治療したい人
特に、「見た目が気になるから抜歯は避けたい」「目立たない方法で治療したい」という方にとって、ベネスライダーはとても相性のよい選択です。
どんな仕組みで歯が動くの?
歯を動かすには「引っぱるための支点」が必要です。
たとえば、引き戸を動かすとき、どこかに手をかけて力を入れないと開きませんよね?
ベネスライダーの場合、上あごの内側に小さなネジ(スクリュー)を2本埋め込み、そこを支点にして奥歯を引っ張る仕組みです。
このネジは「TAD(タッド)」と呼ばれ、矯正用のとても小さなインプラントです。
手術と聞くと驚くかもしれませんが、麻酔をしてから行うので痛みはほとんどなく、数分で終わります。
ネジに取りつけた金属のワイヤー(ベネスライダー本体)が、奥歯を少しずつゆっくりと後ろへ動かしていきます。
この動きは調整しながら、約数ヶ月~半年ほどかけて進めます。
痛みや違和感はある?

装置をつけた直後は、少し違和感を感じることがあります。
上あごにワイヤーがあるので、最初は「何か当たっているな」と思うかもしれません。
ただし、装置自体は動かないため、慣れてくるとほとんど気にならなくなります。
痛みについても、スクリューを入れるときに少しの麻酔をしますので、処置中に強い痛みを感じることはほとんどありません。
装置による歯の移動はゆっくり行うため、通常のワイヤー矯正と同じように、「少し押される感じ」「ズーンと重たい感じ」が時々ある程度です。
メリットとデメリット
メリット
✅ 外から見えないので目立たない
✅ 患者さん自身で取り外す必要がない(忘れずに治療が進む)
✅ 精密に奥歯を動かせる
✅ 抜歯せずに治療ができる可能性が高まる
デメリット
❗ 口の中の天井にネジを入れるため、少し勇気がいる
❗ ワイヤー部分に食べ物が当たると汚れやすいので、お掃除が必要
❗ スクリューがごくまれに外れることがある
どんな流れで治療するの?



- 診断と説明
まずは、口の中の状態をレントゲンや型取りなどで詳しく調べます。ベネスライダーが必要かどうか、歯科医が丁寧に説明してくれます。 - スクリューを埋め込む
小さな麻酔をして、スクリューを上あごの内側に埋め込みます。10~15分程度で終了し、すぐに日常生活に戻れます。 - 装置の装着
後日、スクリューにベネスライダー本体を装着します。この日から奥歯の移動が始まります。 - 定期的な調整
1ヶ月~1.5ヶ月ごとに通院し、装置のバネやワイヤーの力を調整します。 - 取り外し
必要な位置まで奥歯が動いたら、装置を外します。その後は、ワイヤー矯正やマウスピースで歯並び全体を仕上げていきます。
ベネスライダーと未来の矯正治療
最近では、ベネスライダーを3Dスキャンやデジタル設計でカスタマイズして、患者さん一人ひとりに合った形で作るクリニックも増えています。
より正確で、より効率的に歯を動かせるようになってきているのです。
当院も3Dスキャンを導入しております。
また、マウスピース矯正と組み合わせて使うことで、「目立たず」「痛みを抑えて」「スピーディーに」治療する新しいスタイルも注目されています。

👆 当院の3Dスキャナー「iTero」です。
実際に使われた症例
たとえば、高校生のAさんは、前歯の出っ張りを気にして矯正相談に来られました。
口元の印象をできるだけ変えずに、非抜歯で治療したいという希望がありました。
診断の結果、前歯を後ろに下げるためには、奥歯をさらに奥へ動かす必要があると判断され、ベネスライダーを使った治療が提案されました。
上あごの内側に小さなスクリューを2本埋め込み、装置を固定。
治療は順調に進み、数ヶ月で十分なスペースが確保され、最終的にマウスピース矯正と併用して整った歯並びに仕上げることができました。
このように、ベネスライダーは「抜歯せずにきれいな歯並びを実現したい」という希望を叶える手助けになることが多いのです。
ただしすべてのケースで非抜歯が可能とは限らないため、あくまで専門医と相談しながら、最適な治療方針を決めることが大切です。
ベネスライダーと抜歯矯正の違いってなに?
矯正治療では、歯並びを整えるために「スペース(すき間)」をつくる必要があります。
多くのケースでは、抜歯をしてスペースを確保するのが一般的です。
特に前歯が大きく前に出ている場合や、歯の大きさに対してあごが小さい場合など、抜歯は効果的な手段です。
ただし、健康な歯を抜くことに抵抗がある方も多いでしょう。
また、抜歯によって見た目のバランスが変わることもあり、慎重な判断が求められます。
そこで活躍するのがベネスライダーです。
ベネスライダーを使うと、奥歯を後ろに動かすことでスペースをつくることができます。
これにより、前歯を後退させたり、歯列全体を整えるための「抜歯に代わるスペースづくり」が可能になるのです。

👆 院内技工でベネスライダーを作成している様子です。
抜歯とベネスライダー それぞれの特徴
比較項目 | 抜歯矯正 | ベネスライダー |
スペースの作り方 | 歯を抜いて確保 | 奥歯を後ろに動かす |
見た目の変化 | 前歯が後退しやすい | 顔つきへの影響が少なめ |
治療期間 | 比較的安定しやすい | 奥歯の移動に時間がかかることも |
外科処置 | 抜歯が必要 | ミニスクリュー埋入が必要 |
メリット | スペースがしっかり確保できる | 歯を残したまま矯正できる |
デメリット | 健康な歯を抜く必要がある | 外科的なミニスクリュー処置が必要 |
向いている症例 | 強い出っ歯や重度の叢生など | 中等度の前歯突出、非抜歯希望など |
ベネスライダーを使っても抜歯が必要な場合とは?
ベネスライダーは、奥歯の遠心移動によって非抜歯での矯正を可能にしてくれる装置ですが、すべての症例に適しているわけではありません。
たとえば、上下の前歯の突出が強く、口元のボリュームを大きく下げたい場合や、歯のがたつき(叢生)が重度な場合には、十分なスペースを確保するために抜歯が必要になることもあります。
また、奥歯を後ろに動かす距離には限界があり、顎の構造や骨の量によっては、思ったように奥歯が動かないケースもあります。
そうした場合、ベネスライダーで無理に非抜歯治療を目指すよりも、計画的な抜歯で効率よく治療を進める方がよいと判断されることもあります。
まとめ
治療法の選択には、「どの装置を使うか」だけでなく、「どのくらい歯を動かす必要があるか」や「見た目の変化をどこまで求めるか」といった治療の目的やゴールの共有が欠かせません。
ベネスライダーは、目立たず、健康な歯をできるだけ残したいという方にとって非常に魅力的な選択肢ですが、症例によっては抜歯がベストな治療となることもあります。
大切なのは、患者さんと歯科医師がよく相談し、最も効果的で納得できる方法を選ぶことです。
症例紹介








主訴 | でこぼこを綺麗にしたい |
診断名 | 叢生 |
年齢 | 20代女性 |
治療内容 | ブラケットを用いた歯列矯正治療 スライダー |
抜歯・非抜歯 | 抜歯あり 44 54 |
治療期間 | 動的治療3年 |
費用 | 総額¥1,240,000(税込) (相談料、検査料、診断料、動的治療費、保定期間料、抜歯代、スライダー費、アンカースクリュー費等を含む) |
リスク・副作用 | 歯痛、ムシ歯、歯周病、口内炎、発音 障害、歯根吸収、歯肉退縮、歯髄炎、顎関節症、歯の伵耗とエナメルクラック |
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
このブログが、矯正治療を考えている方の不安や疑問を少しでも軽くできれば嬉しいです。
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