1.症例概要
今回ご紹介するのは、「前歯でしっかり噛めるようになりたい」というお悩みで来院された患者様の症例です。
初診時には、上下の前歯が接触せず噛み合わない「開咬(オープンバイト)」と診断しました。開咬は見た目だけでなく、前歯で食べ物を噛み切れない、発音しにくい、奥歯へ負担が集中するなど、機能面にも影響を及ぼす不正咬合です。
本症例では外科手術は行わず、表側ワイヤー矯正で治療しました。上下左右4番を4本抜歯し、クローズドコイルスプリングやパワーチェーンで抜歯スペースを閉鎖しながら歯列を整え、治療中盤からはエラスティックゴムも併用して咬み合わせを調整しました。
動的治療期間は約1年6か月です。治療後は前歯がしっかり噛み合い、見た目だけでなく前歯で噛める機能的な咬み合わせを獲得することができました。
患者情報

2.初診時の状態

診察で確認された主な所見は以下のとおりです。
・上下の前歯が咬合していない(開咬)
・右上1が欠如し補綴物(被せ物)が入っている
3.診断内容
精密検査の結果、前歯部の開咬に加え、歯列全体のバランスを改善する必要があると判断しました。
前歯だけを動かす治療では理想的な咬み合わせや長期的な安定性を得ることが難しいため、上下左右4番を抜歯してスペースを確保し、歯列全体を整えながら上下の歯を適切な位置へ移動させる治療計画を立案しました。
抜歯してできたすき間は、クローズドコイルスプリング(歯を引っ張るバネ)やパワーチェーン(ゴム状のチェーンで歯を連続的に動かす装置)を使用して効率よく閉鎖しました。また、治療後半にはエラスティックゴム(上下の歯にかける小さなゴム)を使用し、上下の歯のかみ合わせを細かく調整しました。患者様にも治療内容や期間について十分にご説明し、ご理解・ご同意いただいたうえで治療を開始しました。


4.治療計画
治療では以下の方法を選択しました。
・表側ワイヤー矯正
・上下左右4番4本抜歯
・クローズドコイルスプリングによる抜歯スペースの閉鎖(歯を引っ張るバネ)
・パワーチェーンによる抜歯スペースの閉鎖(ゴム状のチェーンで歯を連続的に動かす装置)
・エラスティックゴム(上下の歯にかける小さなゴム)
ワイヤー矯正は歯を三次元的に細かくコントロールできるため、複雑な歯の移動や開咬の改善にも適しています。
5.治療経過
治療開始日

上下左右の第一小臼歯(4番)を4本抜歯しました。上前歯4本にセラミックブリッジを装着しています。

上前歯4本のセラミックブリッジは、装置を取れにくくするために仮歯に変えました。表側にブラケット装置を装着し、抜歯後はクローズドコイルスプリング(歯を引っ張るバネ)を使用して抜歯スペースの閉鎖を開始し、歯列全体を整えながら開咬の改善を目指しました。
半年後

治療開始から半年が経過し、抜歯スペースは順調に閉鎖が進み、歯列全体のデコボコも改善してきました。前歯の位置も徐々に整い始め、開咬の改善がみられるようになりました。この時期からは前歯の被蓋を獲得するためワイヤー調整を行い、患者様には顎間ゴムを継続して使用していただきました。毎日しっかり装着していただいたことで、治療は順調に進行しました。
1年後

治療開始から約1年が経過し、前歯の開きは大きく改善しました。残っているすき間を埋めて前歯をしっかり咬ませるため、上の前歯のワイヤーを曲げて歯の動きを細かく調整しました。
また、左側のみ顎間ゴムを使用し、左右のバランスを整えながら最終的な咬み合わせの調整を行いました。
1年6か月後

上前歯4本の仮歯は、歯をより理想的な位置へ動かしていくために、仮歯と仮歯の間にあえて少し隙間を設けています。矯正治療だけでなく、一般治療もあわせて行っている当院だからこそ、お口の状態や治療の進みに合わせて、仮歯も細かく調整しながら治療を進めることができます。
治療開始から1年6か月で前歯がしっかり接触し、安定した咬み合わせが獲得できました。抜歯スペースもほぼ閉鎖し、歯列全体のバランスも改善したため、動的治療を終了して保定期間へ移行しました。その後、ホワイトニングを行い、上顎前歯4本のセラミックブリッジによる補綴治療を実施しました。
6.矯正治療終了後

治療前は前歯が噛み合わず、食事の際には奥歯に頼る状態でした。治療後は前歯で食べ物を噛み切れるようになり、上下の歯の接触も改善しました。
さらにホワイトニングとセラミックブリッジによる補綴治療を行うことで、歯並びだけでなく前歯の色調や形態も整い、機能面と審美面の両方を改善することができました。
ホワイトニング後

セラミックブリッジ後

7.担当医コメント
歯科治療は大きく分けると歯の位置を変える矯正治療、歯の形を変える補綴治療に分けられますが、それを通常はそれぞれのドクターもしくは歯科医院が行う場合が多く、1か所でまとめてできるケースは少ないと思います。
当院では、院長がその両方を担当することができるため、打ち合わせが不要となり、迅速な治療と治療内容に関して引き継ぎが無いことで、治療の間違いや混乱がないことがメリットとして考えられます。また患者さんも1か所で、なおかつ同じドクターに相談できるので安心して治療を受けることができたと思います。
さらに、ホワイトニングによって歯の色調を明るく整えた後に、ブリッジを入れているので、色調に統一感が出ています。今後定期的なメンテナンスを継続することで美しく健康的な歯を維持することができると考えます。
8.よくある質問
Q1. 開咬は治療後に後戻りすることがありますか?
A. はい、開咬は治療後に後戻りする可能性があります。特に舌で前歯を押す癖(舌癖)や口呼吸、指しゃぶりなどの習癖が改善されていない場合は、再び前歯が開いてしまうことがあります。そのため、矯正治療後はリテーナー(保定装置)を指示どおり装着し、定期的なメンテナンスを受けることが大切です。必要に応じてMFT(口腔筋機能療法)を行い、お口周りの筋肉や舌の正しい使い方を身につけることで、治療後の安定性を高めることができます。
Q2. 開咬(オープンバイト)は放っておいても大丈夫ですか?
A. 開咬を放置すると、前歯で食べ物を噛み切れないため奥歯に負担が集中し、歯の摩耗や詰め物・被せ物の破損、顎関節への負担につながることがあります。また、発音がしにくくなったり、口元の見た目が気になったりする場合もあります。さらに、舌癖や口呼吸などの原因が残っていると症状が悪化することもあります。気になる症状がある方は、早めに矯正相談を受けることをおすすめします。
Q3. 開咬はワイヤー矯正で治りますか?
多くの開咬はワイヤー矯正で改善が可能です。ワイヤー矯正は歯を三次元的に細かくコントロールできるため、前歯の噛み合わせや歯列全体のバランスを整えるのに適しています。症例によっては抜歯や矯正用アンカースクリュー、エラスティックゴムを併用することで、より効率的に治療を進めることができます。一方で、骨格的な原因が強い場合には外科矯正を併用するケースもあるため、精密検査を行い、お口の状態に合わせた治療計画をご提案します。
まとめ

前歯が噛み合わない開咬は、見た目だけでなく食事や発音、将来的な噛み合わせにも影響する不正咬合です。
今回の症例では、外科手術を行わず、表側ワイヤー矯正と上下左右4番4本抜歯、クローズドコイルスプリング、パワーチェーン、エラスティックゴムを組み合わせることで、約1年6か月で前歯がしっかり噛み合う機能的な咬み合わせへ改善しました。
開咬の原因や治療方法は患者様によって異なります。前歯で噛めない、口元が気になるなどのお悩みがある方は、まずは精密検査を受け、ご自身に合った治療方法を知ることが大切です。当院では患者様一人ひとりのお口の状態に合わせた治療計画をご提案していますので、お気軽にご相談ください。
こちらのブログではこれからも、矯正治療や歯科治療に関する情報を発信していきますので、皆様のお口の健康に少しでも役立てていただけますと幸いです。
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